JIPADは、日本集中治療医学会の運営する診療データベースです。
日本集中治療医学会は、集中治療を専門とする医療者の自発的なあつまりであり、研究、教育のみならず、日本における集中治療の安全性と質の向上を目指して活動しています。 特にコロナ禍を機会に、その活動は広く世の中の人々に知られるようになったと実感しております。 令和5年には集中治療科として医師届出表にも記載されることになり、日本専門医機構におけるサブスペシャルティ領域専門医としても認められる運びとなりました。 このような流れの中で2014年から開始されたJIPAD(日本ICU患者データベース、Japanese Intensive care PAtient Database)事業は本分野の発展に大きく寄与してきたと自負しています。
このページはリーフレット(2022年発行)を参考にしています。
最新の年次レポートについては下記URLをご参照ください。
JIPADにおける参加施設・準じる施設は下記URLをご参照ください。
https://www.jsicm.org/research/jipadjoin/

日本の集中治療についての信頼できる精緻なデータ
JIPADに集積されているデータは、患者の診療に日々携わっている臨床家がその専門性に基づいて収集・提出しており、その内容は、診断と入室経路からバイタルサイン、治療内容、合併症、退院時転帰にまでおよんでいます。これらは専門医師により構成される委員会で、最新の医学的知見を反映して定期的に更新されるコードに基づき、客観的に解析可能なかたちで収集されます。規模のみならず信頼性や精緻さの点で、日本の集中治療についてこれほど信頼できるデータは他にありません。

数値から見る診療内容
成人重症 (n=32,569) |
COVID-19 (n=1,459) |
|
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人工呼吸使用率 | 54.0% | 62.4% |
NPPV | 9.0% | 1.5% |
HFNC | 11.5% | 21.5% |
AKIに対する腎代替療法 | 7.6% | 9.1% |
ICU在室日数 | 2.7 [1.4,5.3] | 7.5 [2.9,15.6] |
人工呼吸器のまま病棟退室 | 10.7% | 13.3% |
ICU死亡率 | 6.1% | 11.4% |
退院時死亡率 | 13.2% | 19.1% |
「人工呼吸器のまま病棟退室」は人工呼吸器使用症例における割合。
今も発展を続けています
2023年1月の時点で参加表明施設は290施設、データ登録を開始 している施設は112施設となりました。登録症例数も2023年に400,000例を超え、2025年10月には500,000例を突破しました。 最終的には我が国のICUは全てJIPAD登録を行っていることを目指しています。 2023年からはDPCデータやPICSデータを取り入れた新しいレジス卜りの展開も計画しており、今後は集中治療におげる診療の質指標の作成にも寄与できると考えております。 また、ANZICSのレジス卜リをはじめ、多くの先進諸国におけるcounterpartsと連携し我が国における集中治療の質の向上に引き続き寄与していきます。
施設数と症例数の推移

JIPAD 年次レポート(和文/英文)を一般公開しています
2015年度に9施設のデータで年次レポートを初めて発行して以来、毎年一般公開を続けています。 2023年には83施設のデータからなる2021年版年次レポートを発行しており、海外のANZICSレジストリとJIPADの比較やCOVID-19診療関連の情報も含まれています。 また、英語版のJIPAD年次レポートも発行することで、海外の医療者にも情報提供を行っています。
「インタラクティブレポート」参加施設に対するフィードバックをしています
JIPAD参加施設には参加施設全体と自施設を比較することが可能な「施設レポート」を毎年提供しています。 2022年からはその施設レポートをさらに発展させ、「インタラクティブレポート」の形で提供開始しました。 従来のレポートでは成人・小児といった固定化されたサブグループでしか比較が出来ませんでしたが、インタラクティブレポートでは、それぞれの関心のあるサブグループを自由に選択することでより細やかな比較することが可能です。
客観的なデータにより臨床現場を支援します
参加施設に対して標準化死亡比(SMR)、指数重み付き移動平均管理図(EWMAチャー卜)、リソースの有効利用(Efficiency matrix)を提供し、施設の見直しのための支援をしています。
漏斗図(Funnel plot)

指数重み付き移動平均管理図(EWMAチャー卜)

リソースの有効利用(Efficiency matrix)

Japan Risk of Death(JROD)モデル 日本の医療環境に即した正確な医療の質評価をしています
集中治療室の医療の質指標のーつとして標準化死亡比(SMR)があります。APACHEなど欧米の古いモデルを用いて算出した場合、死亡率を過大に評価してしまうため、SMRの値が現場感覚とは乖離したものとなっていました。 JIPADワーキンググループでは、日本の医療環境に即した新しいモデルであるJapan Risk of Death (JROD)の開発および検証を行い、2020年度JIPAD年次レポートよりJRODから算出される予測死亡率 /SMRの提供を始めました。 今後JIPADでは、JRODをメインのリスクモデルとして参加施設の医療の質評価を行い、改善に繋げていきたいと思います。JRODの詳細は以下論文をご参照下さい。 参考文献: Endo et al. Journal of Intensive Care (2021) 9:18

海外とのコラボレーションもはじまっています
国際的なベンチマーキングプラットフォームであるLOGIC(Linking of Global Intensive Care)に参加しています。 LOGICでは、患者の転帰を改善するための医療の質改善、ベンチマーキング、臨床研究推進を目的とし、現在13カ国1500以上のICUからの情報を収集しています。 引き続き海外とのコラポレーションを進めていきます。
JIPADデータは研究に活用されています
2020年2月以降、JIPADを用いた臨床研究が可能となり、JIPAD参加施設はデータ利用申請が可能です。 現在までに10本の論文が出版されています。出版された論文はJIPADwebページをご参照下さい。 https://www.jipad.org/conference
小児症例の登録も増加しています
我が国では年間2万例以上の重症小児患者が発生すると試算されており、うち1万例あまりが小児集中治療室(PICU)に入室しています。 小児集中治療委員会を中心として全国のPICUのJIPAD参画を呼びかけ、現在全国から9つのPICUが参加表明しています。 JIPADに登録された小児症例数は年々増えており、2020年度はICUに収容された小児症例とPICUに収容された小児症例を合わせて2,568例が登録されました。
症例数, n | 2,568 |
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症例数, n(%) | |
非手術 | 771(30.0) |
外因系 | 73(2.8) |
心血管 | 110(4.3) |
神経 | 161(6.3) |
呼吸器 | 194(7.6) |
腎臓 | 11(0.4) |
消化器 | 52(2.0) |
PIM2 | |
予測死亡率, median [IQR], % | 1.0 [0.3,2.2] |
予測死亡率, mean (SD), % [IQR], % | 3.9 (11.6) |
PIM3 | |
予測死亡率, median [IQR], % | 0.8 [0.3,1.9] |
予測死亡率, mean (SD), % [IQR], % | 3.5 (11.4) |
pSOFA | |
スコア, median [IQR] | 3 [1,6] |
国内でのデータ連携を進めていきます
JIPADは主に集中治療室内のデータを中心に収集していますが、診療のプロセスに関わるデータや集中治療室退室後の情報は不足していました。 現在、国内の診療報酬データであるDPCデータとの連携を進めています。 これにより、今までよりもさらに多く医療の質指標の評価が可能となり、医療現場の質改善が進んでいくと考えています。 また、集中治療を受けた後に生じる身体機能・認知機能の低下(集中治療後症候群: PICS)がICU退室後に大きな問題となっています。 このPICSの実態を解明するために新たに構築されるデータペースとも連携し、ICU退室後のADL改善、長期予後の改善に貢献できると考えています。
皆様のご理解とご協力が不可欠です。
JIPADは、高い専門性と職業意識に基づいて正確なデータを提出する医師や集中治療室スタッフの努力により成長してきました。 JIPADでは集中治療室に入室した患者の疾患や重症度、入室の経路、集中治療室における治療内容、そしてその転帰といった医療情報を収集します。 集積したデータを用いて、プライバシーを保護しつつ、各施設間での比較を行うなどの方法によって、我が国の医療の質の向上や各施設における医療の質の担保、さらには国際的な集中治療医学の発展に寄与してまいりました。 その結果として均質な高度医療を提供する場が構築され、重症患者の予後の改善に貢献できたと考えます。 ただ最終的には我が国のすべての特定集中治療室でデータを収集することが最終的な目標であり、現在はその途上にあります。 ぜひこの冊子によりJIPADの重要性を理解し、集中治療にかかわる全ての皆様がこの事業に参画いただければと願っております。